ミュージックケア

実践紹介

PRACTICE

音鳴らし

実践のご紹介

NPO法人日本ミュージック・ケア協会会長 宮本 啓子

「音楽の特性を生かし、心と心を響かせ合う」ことを基本に進めれるミュージック・ケアプログラムは、そこに参加する人々を生きる喜びで包んでくれます。特に近年は医療、教育福祉の現場で注目されています。

多くの方々が、身につけることにより、キラキラと輝く笑顔で生きて行くための援助につながるではないでしょうか。

下記実践レポートは、ほんの一部ですがご参考までに、ご覧いただき、是非、本年度各研修会・全国セミナー等へのご参加を心よりお待ち申し上げます。

第15回ミュージック・ケア全国セミナーを終えて

実行委員長 下村 泰人

一年に一度、全国各地で開催されてきた全国セミナーですが、15回目にして初の九州上陸となりました。

テーマは「わかちあおう!生きる喜び-音楽はやっぱりすばらしい!」。

ミュージック・ケアが大事にしてきた音楽と、その音楽がもたらすものの素晴らしさを再確認することを通じ、生の喜びと尊さをわかちあいたいという願いをこめて、2年前から準備を開始しました。

そんな中、3月11日に未曾有の東日本大震災が起こり、多数の人々を一瞬のうちに苦悩に巻き込んでしまいました。

それでも清く逞しく立ち上がろうとする人々の姿に逆に励まされながら、ここ九州から全国に向けて元気を発信しよう、元気の輪を被災地に繋げていこうと、強く思わずにはいられませんでした。

元気の素になってくれた現地スタッフのみなさん、被災地から大変な思いをして参加してくださった人、被災地から応援メッセージを送って下さった人、津波が連れ去ってしまった魂にささげる音楽を奏でた人、その音楽の力について語ってくださった人、その素晴らしさを感じてくださった500人を超える参加者のみなさん一人ひとりに心から感謝しております。

「がんばろう!日本」とあちこちで見かけます。

その言葉に元気を貰えることもあれば、正直苦しくなってしまうこともあります。

私は、すでにもうこれ以上頑張れない位頑張っている人がいること、どこかにまだ自分の助けを待っている人がいるかもしれないことを、忘れないでいることこそが、きっと一番大事なのではないかと感じています。

そして今、しみじみと思います。

人のために心を尽くして何かをすることによってもっとも救われるのは、自分自身なのかもしれないと-。

支えてくださったみなさま本当にありがとうございました。

わかちあおう!生きる喜び ―音楽はやっぱりすばらしい!―

第15回ミュージック・ケア全国セミナー〔福岡大会〕を報告いたします。 2011年8月6日~8日の3日間、北九州国際会議場に、述べ1374名の参加者をお迎えして開催されました。 全員で一体感を味わいわかちあう、いい音や音楽に触れ感動する、ワークショップのように体験を通して学ぶ、 その3つの要素が全ての日に含まれるよう、プログラムを構成しました。 会場には、調律師松永正行氏所有スタインウェイフルコンサートグランドD-274(松永オリジナルアクション)を、山口県から搬入しました。時には人の声のようにも聞こえる、 徹底的に美音を追求された世界に1台しかないピアノをメーンホールで使用しました。

【第1日】2011.08.06(土)

開会式

中村純氏

大会長を引き受けてくださった産業医科大学精神医学教室中村純教授の「音楽やスポーツは、人々を元気づける力を持っている」という挨拶で幕を開けました。

ミュージック・ケア理論・実技

宮本啓子(日本ミュージック・ケア協会会長)

『ミュージック・ケアは音楽を大切に!』というテーマで、事例の映像や実技を交えて、ミュージック・ケアの歴史を振り返りながら、大切にしてきた音楽そのものについて説明の後、実技を体験しました。

宮本啓子氏によるミュージックケア理論 宮本啓子氏によるミュージックケア実技

ワークショップ学術

例年全体講演という形で行われてきた各先生の講義は、より身近に積極的に学べるようにと、初めての試みとして、それぞれ福祉・教育・医療分野の学術ワークショップという形態で行いました。

福祉
 佐藤俊一氏(淑徳大学 総合福祉学部教授)
佐藤俊一氏によるワークショップ学術

大会15回目の節目に、ケアについて振り返りながら、受講生との対話形式で、「私たちはケアしあって生きている。自分と相手の違いを尊重できるかどうか。相手を尊重することで自分らしくなれる。大切なことは援助者の感性を磨くこと。感性とは感じる力・生活の中で磨くもの・感性を磨くといきいきしてくる」ことなど、援助者としてどうあるべきかということを学ぶ時間となりました。

教育
 松木健一氏(福井大学 教職大学院教授)
松木健一氏によるワークショップ学術

ミュージック・ケアを

  1. 身体レベル(実践を真似る)
  2. 象徴レベル(実践を聴き語る)
  3. 理論レベル(言葉に置き換える)

に分け、「人は物語りながら自分を理解し自分自身を創りだすが、専門職の『物語知』は同僚との語りと傾聴の協同関係で成立する」「実践を振り返って整理する語りのケアが明日の一歩に繋がる」など、実践記録をどうまとめていくかということを学ぶ時間となりました。

医療
 栗林文雄氏(名古屋音楽大学 音楽学部教授)
栗林文雄氏によるワークショップ学術

クライエントと関わる3つの重要なものに『まなざし』『動き』『声』があり、対象者と関わる時の声についての講演でした。

体に負担のない発声をするとコミュニケーションの応用ができる、腹筋を使った発声が重要なことなど、実践現場での声について学ぶ時間となりました。

【ワークショップ】ミュージック・ケア 対象者別

子育て支援・自閉症・知的障がい者・重症心身障がい者・介護予防の5つに分かれて、ミュージック・ケア協会認定指導者が、対象者に合わせた実践の提案を行いました。

子育て支援
 仲谷千恵美

楽しみながら発達に有効な体の動きを誘発させ、情緒を安定させる。また親子の好ましい関係を育てることや子どもへのサポートの仕方、安心できる場を作る配慮などを学ぶ時間となりました。

仲谷千恵美氏によるワークショップ 子育て支援 仲谷千恵美氏によるワークショップ 子育て支援
自閉症・発達障がい
 伊藤美恵

“自閉症”に共通する特徴について理解することを中心に講義形式で進められました。

人との関係性やコミュニケーションが困難な人との関わり方、またミュージック・ケアが彼らに有効と思われる理由について学ぶ時間となりました。

伊藤美恵氏によるワークショップ 自閉症 発達障がい 伊藤美恵氏によるワークショップ 自閉症 発達障がい
知的障がい者
 岩城美喜江

一人ひとりを大切にし、安心して参加できる場を提供すること、丁寧に関わることで対象者が楽しく生活していくことに繋がるなど、曲の特性を生かしたアレンジと共に学ぶ時間となりました。

岩城美喜江氏によるワークショップ 知的障がい者 岩城美喜江氏によるワークショップ 知的障がい者
重症心身障がい者
 加瀬夏枝

一人ひとりに寄り添いながら笑顔や反応を引き出していく関わり方以外に、実践前には照明の明るさやCDの音量・子どもへの声掛けなどの細やかな気配りも学ぶ時間となりました。

加瀬夏枝氏によるワークショップ 重症心身障がい者 加瀬夏枝氏によるワークショップ 重症心身障がい者
介護予防
 岡村民

三味線・尺八・太鼓などの和楽器体験やリトミック的な活動など新たな工夫が随所に込められた実践で、リーダーは心も身体も元気であることの重要性を学ぶ時間となりました。

岡村民氏によるワークショップ 介護予防 岡村民氏によるワークショップ 介護予防

夜の特別企画

『わかちあいコンサート』『ミュージック・ケア基本編』が行われました。

【♪わかちあいコンサート♪】~音楽はやっぱりすばらしい!~

世界に一台しかないピアノを弾きませんか?と大会の数か月前から呼びかけたところ、ピアノ以外にもさまざまな楽器での申し込みがありました。賛助出演の"産業医科大学管弦楽団カルテット"で幕が開け、出演者のそれぞれの思いが溢れた演奏に会場も盛り上がりました。最後に飛び入り出演者50人による「ドナウ川のさざ波」の模擬演奏は圧巻でした。全国大会初企画のコンサートは、すべての人の心を一つにし、音楽の素晴らしさをわかちあった夜になりました。

わかちあいコンサート わかちあいコンサート わかちあいコンサート

【ミュージック・ケア基本編】

桶川千枝(認定指導者)

桶川千枝氏によるミュージックケア基本編

ミュージック・ケア基本曲のポイントや大切にしているところを丁寧な説明と共に、楽器の出し方・片付け方の意味など初級研修の基本を復習しました。ダメと言わずに工夫することやリーダーの動きの大切さなど、ミュージック・ケアをさらに深く学ぶ時間となりました。

【第2日】2011.08.07(日)

特別講演

「音楽の秘密~もっと楽しく健康に~」
 湯川れい子氏

音楽評論家の仕事を通して感じられたことを「音楽の秘密」として話されました。重度障がいを持つ親子の映像を通して、音を媒体に共感する素晴らしさを学ぶ時間となりました。

湯川れい子氏による特別公演 湯川れい子氏による特別公演

ミュージック・ケア実演

宮本啓子(日本ミュージック・ケア協会会長)

佐賀県の知的障がい者施設[若木園]から22名と職員6名を迎え、湯川先生が講演で紹介された曲で始まりました。

輪の中に入れなかった人が最後は真ん中で参加される様子を目の当たりにし、対象者に寄り添う関わりの大切さを学びました。

宮本啓子氏によるミュージックケア実演 ミュージックケア実演

ミュージック・ケア理論・実技

宮本啓子(日本ミュージック・ケア協会会長)

関わり方や効果がでるための工夫など、実技を通して学びました。50グラムの力で触れて誘導することや、前々の声かけと曲の終わりの間のとり方やほめ方を体験したことでより一体感を感じることができ、心地よい疲労と共に達成感を味わう時間となりました。

宮本啓子氏と受講者によるミュージックケア実技 宮本啓子氏と受講者によるミュージックケア実技 宮本啓子氏と受講者によるミュージックケア実技

芸術ワークショップ

即興演奏
 三宅聖子氏
三宅聖子氏と受講者による即興演奏

≪即興演奏はコミュニケーション≫のテーマで音楽を通して一緒にいる楽しさを共に味わう事を、様々な方法で体験しました。

テーマを募った即興演奏は上手下手ではなく、パートナーとのやり取りを楽しみ、自分の気持ちを楽器に託すことを学ぶ時間となりました。

ペンタトニック
 井手芳弘氏
井手芳弘氏と受講者によるペンタトニック

ペンタトニックのなりたちを学んだ後、小倉の海を見ることからセッションが始まりました。

風鈴やでんでん太鼓を鳴らして風をスカーフで表現した後、楽器の澄んだ音色や音と音の間の静寂な時間に耳を澄ましたり、不思議な空間を体験する時間となりました。

 高松玲子氏
高松玲子氏と受講者による歌

ストレッチや呼吸法で身体の力を抜くことから始まりました。

歌の背景を考えながら歌詞の意味を改めて学んだ後、先生の歌声に釣られるように、受講生の声も深く響きのある歌声へと変化していきました。

歌詞を朗読して曲を理解し、自分自身でイメージを持つことの大切さを学ぶ時間となりました。

ダンス
 加藤善之(認定指導者)
加藤善之氏と受講者よるダンス

≪即興演奏はコミュニケーション≫のテーマで音楽を通して一緒にいる楽しさを共に味わう事を、様々な方法で体験しました。

レセプション

小倉祇園太鼓のパフォーマンス

中村大会長からのプレゼント勇壮な小倉祇園太鼓で始まりました。ワークショップ講師の先生方や全国研究会からは歌・楽器演奏・ダンスの出し物、また認定指導者による劇等、様々なパフォーマンスで盛り上がりました。

【第3日】2011.08.08(月)

ポスター発表

ポスター発表

6会場に分かれて、21名が発表しました。どの会場も実践の説明が丁寧になされ、受講生たちの意見交換が活発に行われました。

全体発表

~音楽療法と音楽活動:実施形態による比較~
 山下瞳
全体発表

三宅先生からは場の設定や空間・関わる人により結果が変わる可能性がある事、客観的に評価する人がいる事の重要性について。

宮本先生からは継続の重要性と比較研究や基礎研究の必要性について。

論文委員の伊藤さんからはミュージック・ケアにはプログラムのストーリーがあることなどのコメントがありました。

ピアノリサイタル

杉谷昭子氏

「本大会の副テーマ『音楽はやっぱりすばらしい!』を実際に感じましょう!」の言葉で始まりました。

東日本大震災・広島原爆・長崎原爆を忘れないようにと「イエスよ、我、汝の名を呼ぶ」が祈りと共に奏でられました。

モーツアルトやショパン以外に杉谷先生編曲「カタリカタリ」など、一曲ごとに込められた先生の思いが語られました。

音には優しさや力強さなど様々な表情があることを先生の演奏から学ぶことができ、音楽の持つ力や素晴らしさを改めて感じる時間となりました。

杉谷昭子氏によるピアノリサイタル 杉谷昭子氏

ピアニスト杉谷昭子氏と調律師・松永正行氏の対談

対談

「彼はすごい音を作る人です。」と杉谷先生から松永さんが紹介されました。

松永さんが作った鍵盤と既成の鍵盤を杉谷先生の演奏で聴き比べました。

鍵盤を入れ換える時の作業は自分の命を吹き込んでいるようで会場中が息を飲んで見守りました。

その姿はまさに"匠"そのもので、美しい音を追求し続ける姿勢に多くのことを学んだ時間となりました。

【ワークショップ】ミュージック・ケア場面別

障がい児通所施設・特別支援学校・障がい者入所施設・高齢者デイサービス・高齢者入所施設の5つに分かれて、ミュージックケア協会認定指導者が、場面に合わせた実践の提案を行いました。

障がい児通所施設
 江戸晶子
江戸晶子氏によるミュージックケア場面別ワークショップ

生活の不自由さや生きにくさなど、相手が出しているサインに察知して援助すること。

また瞬間を喜びあう積み重ねを大事にすることなどが困難に打ち勝つ精神力を養い、障がいがあっても社会生活への適応力を培えることに繋がることを学ぶ時間となりました。

特別支援学校
 松浦千賀

支援学校の生徒たちが楽しそうに鍵盤楽器を演奏する様子が映像で流れると、感嘆の声があがり拍手が鳴り響きました。

オーケストラの一員となり、楽器を増やしながら主体的に音楽を作る過程を体験しました。

音楽の特性と構造を理解し、楽しみながら鍵盤楽器に移行できることを学ぶ時間となりました。

松浦千賀氏によるミュージックケア実践 松浦千賀氏によるミュージックケア実践
障がい者入所施設
 松本鈴子

一人ひとりのできる事に寄り添いながら、外界との関わりや季節・行事などが感じられる時間であること。

またいきいきと生きようとする気持ちを支え、施設の中でも日常生活を豊かに、ゆっくり楽しい時間を提供するための工夫と実践を学ぶ時間となりました。

松本鈴子氏によるミュージックケア場面別ワークショップ 松本鈴子氏によるミュージックケア場面別ワークショップ
高齢者デイサービス
 吉田茂樹

一人ひとり利用目的や心身状態が違うことを踏まえながら、実践から始まりました。

速い曲や難しい動作は無理だと決めつけず「聞く人・見る人」などいろいろな参加があるので、対象者に選んでもらうこと。

また音楽そのものが人の心を揺さぶる素晴らしさを持っていることなどを改めて学ぶ時間となりました。

吉田茂樹氏によるミュージックケア場面別ワークショップ 吉田茂樹氏によるミュージックケア場面別ワークショップ
高齢者入所施設
 東田和子

基本曲で対象者に寄り添うこと、また介助者の気持ちを一方的に押し付けず一緒に楽しむ関係性がミュージック・ケアの場であることをロールプレイ体験しました。

一見問題行動に思える行動にも「必ず意味がある」と、考えることの大切さを学ぶ時間となりました。

東田和子氏によるミュージックケア場面別ワークショップ 東田和子氏によるミュージックケア場面別ワークショップ

ふかめあい たしかめあい

宮本啓子(日本ミュージック・ケア協会会長)

認定指導者による実技がリズミカルに、ダイナミックに展開していきました。

『わかちあおう!生きる喜び!』を東北地震の被災地へ届けと願いを込めた3日間がそこにありました。

集ったすべての人の心に、『命の重み・今あることへの感謝の思い』が繋がっていきました。

講師と受講者によるミュージックケア実践 講師と受講者によるミュージックケア実践 講師と受講者によるミュージックケア実践 講師と受講者によるミュージックケア実践

閉会式

宮本先生から「ミュージック・ケアのメソッドは現場で練り上げられてきたものです。これからも増え続けていくと思いますが、まずは基本曲をしっかり学んでください」と、基本の重要性の話がありました。

実行委員長の下村さんから「『全国セミナーを北九州で開催する』使命を帯び、小倉から全国へ元気を発信できたことに大きな意味があります。みなさんと一緒に音楽の持つ力と優しさを感じ、改めて音楽はやっぱり素晴らしいと思いました」と挨拶がありました。

宮城県の受講生から「物的支援だけでなく、何度も来て実践してくださりとても勇気づけられました。今も現地は混乱している状況ですが、みなさんにお礼を言いたくて福岡まで来ました」と感謝の言葉を述べられました。

来年の全国セミナー会場「横浜大会」の発表と大会長・松浦千賀さんの紹介後、第15回全国セミナー「福岡大会」は三日間の幕を閉じました。